「即戦力」という幻想

マーケティング小話

インバウンドにおいて

一時期、花王のオムツ「メリーズ」の爆買いが社会現象化していた。

中国で大人気となり、その転売目的で

中国人が日本のメリーズを買いあさっている、というものだ。

店舗で「お1人2個まで」と制限をつけても、

バイトを雇ったり、友人にお願いしたり、レンタカーで何店舗も回ったりして

とにかくメリーズは買いまくられた。

…というのは、しかし、今は昔の話。

現在では、花王のメリーズの人気はひと段落し、

むしろ下火になってきている。

代わって、現地で人気なのは

大王製紙のオムツ「グーン」だ。

両製品の決定的な違いは、

グーンは、薄くてお尻にフィットする履き心地(漏れにくい)

メリーズは、分厚くて柔らかさを追求(ふわふわ感)

中国では、多くの消費者(母親)がメリーズからグーンへと

スイッチしていっている。

その理由は、一言で言えば

グーンの方が良い商品だからである。

ここで言う「良い商品」というのは、

「品質が優れている」という意味ではない。

メリーズだって、品質は優れている。

グーンの方が、「ニーズに合致している」という意味である。

花王という会社は、そもそも技術信仰の強い体質だが

オムツにおいては、技術者による「柔らかさ」追求に走りすぎている。

その結果、不必要なまでに「分厚い」のだ。

しかし、利用シーンを考えてみれば

顧客(母親)にとって、「薄さ」は大切な要素なのである。

幼稚園・保育園の荷物置き場のスペースは限られているのだから

1つあたりが薄くて、枚数を多く置ける方が良いに決まっている。

中国は基本的に共働き世帯なのだから、働く母親にとって

かばんに入れるオムツは薄い方が良いに決まっている。

(これらは、日本でも同様)

そして、決定的な事がもう1つ。

顧客(母親)は、もう「柔らかさ」には、とっくに満足している。

他のオムツが、ゴワゴワで硬いならともかく

グーンだって、十分に柔らかい。

そして、薄いのである。

そもそも

オムツの場合、商品を判断するのは、利用者(赤ちゃん)ではない。

選ぶのは、オムツをはかない母親である。

だから、過剰な「柔らかさ」追求は、

会社の技術者の評価にはつながっても

売上にはつながらないのである。

日本企業によく見られる、ニーズを見誤った技術信仰の結果、と言える。

山積み、しかし売れ行き伸びず

問題なのは

こうした考察は、子育てを経験している者ならば

当たり前に思いつくアイデアだが、

子育てをしていなければ絶対に気づけない。

さて、それでは、花王のマーケティング・製造には

どれだけ子育ての当事者経験を有した人材がいるだろうか。

「子供がいる」と「子育てをしている」は全く別物である。

多くの場合、メーカーのマーケティング部は

他部署よりも残業が多く、ハードで、

それゆえに子供のいる女性社員は配置されにくい。

彼女たちは、マーケを希望したとしても、定時であがれる部署に送り込まれる。

花王の花形部署の1つである「メリーズ」事業部には、

ハードに働ける男性社員や、期待の若手・新人が配置されやすいはずだ。

しかし、男性社員たちは子供がいても、子供の面倒は妻に任せきりだろう。

残業続きで、子供の幼稚園・保育園への送り迎えをやっているわけがない。

期待の若手・新人は、そもそも子供がいない。

だから、極端に言えば

当事者経験のない集団で、想像でモノづくりをしているわけである。

それでは、ニーズを捉えられるわけがない。

(十分に顧客リサーチはしている!と言われるかもしれないが、

 事実として、出来上がった製品はニーズから離れている)

結果である製品から逆算すれば、こう考えられる。

結局のところ

新入社員で「即戦力」というのは、ほぼあり得ない。

業界、ジャンルによって、0とは言い切らないが

普通に考えて

知識、経験、ノウハウに欠けた新人が「即戦力」になれるわけはないのだ。

逆に言えば、「即戦力」になれたとしたら

その会社の既存戦力があまりに低すぎる証拠だろう。

「即戦力」を目指す必要はないし、

3年で「戦力」になれるケースも多くはないだろう。

そうではなくて

自身の「潜在能力」・「ポテンシャル」の高さを信じる/売り込む

その方がよほど現実的で、信用できる。

「即戦力」ではなく、

「将来有望」が理想的だ。

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