映画のもうひとつの経済効果

マーケティング小話

映画の経済効果としては、

映画製作段階における、各ブランドによる広告宣伝(Product Placement)活動

もちろん映画館での上映にまつわる興行収入、グッズ販売、飲食販売

DVD、Blu-ray、ネット配信、テレビ放映といった二次利用

映画の上映期間とは切り離された、アパレル、トイなどの常態的なコンテンツ・ビジネス

ざっと考えても、これだけ出てくる。

しかし、もうひとつ

巨大な経済効果を忘れがちである。

それは、撮影地(ロケ地)における巨大な消費効果・需要創出効果だ。

MCUの『Thor』シリーズ第4弾、『THOR Lover and Thunder』が

2020年8月から、オーストラリアで撮影されることが発表された。

マーベル・スタジオとオーストラリア政府の発表によると

シドニーにあるFOXスタジオズ・オーストラリア(ディズニー所有)にて行われるという。

また、これに先がけて

MCU初のアジア系ヒーロー映画『Shang-Chi』もここで撮影される。

『THOR Lover and Thunder』の撮影には

オーストラリアの連邦政府・州政府から

1,670万ドル(約18億円)の補助金が支払われる。

これだけ見ると、「映画なんかに、そんな国のお金を…」と思うかもしれない。

しかし、ロケ誘致には、それをはるかに上回る経済効果が見込めるのだ。

2作品のオーストラリアでの撮影によって

マーベル・スタジオは

現地にて1億7,800万ドル(約200億円)以上の撮影費用の使用、

2,500以上の仕事を現地に生み出し、

約1,650の現地企業を、撮影に利用すると試算されている。

ハリウッド大作のロケ誘致には、これだけの経済効果がついてくるのである。

加えて、マーベル・スタジオは

映画・テレビ・演劇に関する現地の教育機関と連携して、

学生を対象とした研修プログラム・インターンシップも実施予定だ。

国の宣伝、観光効果だって、計り知れない大きさになるだろう。

主演のChristopher Hemsworthは、オーストラリア出身のスターで

現在でもオーストラリア在住である。

監督のTaika Waititiは、隣国のニュージーランド出身である。

この2点は、オーストラリア政府がロケ誘致を勝ち取った大きな要因の一つに違いない。

こうした経済効果にいち早く目をつけ、

国をあげてロケ誘致に力を入れているのが、韓国だ。

『BLACK PANTHER』の撮影は、韓国の釜山で

2週間、車150台、エキストラ700人を稼働して大々的に行われた。

韓国には、「韓国映画振興委員会」と呼ばれる特殊法人が存在する。

これは、行政機関による映画振興を目的としたもので

彼らはインセンティブ・プログラムとして

マーベル・スタジオ/ディズニーに

230万ドル(約2.5億円)の補助金を提供しているという。

加えて、人口5,000万人、狭い国土の中に

世界5位の市場規模があるという韓国映画市場も、魅力である。

ソウルで撮影された『Avengers: Age of Ultron』も

釜山で撮影された『BLACK PANTHER』も

韓国市場は、日本市場の3倍の興行収入をあげた。

(韓国の人口は、日本の半分以下にもかかわらず)

韓国では、国を挙げた補助金、撮影許可、道路規制など

撮影しやすい環境づくりで有名だ。

日本の『アイアムアヒーロー』も、アクションシーンの大半は韓国撮影だった。

日本が舞台で、日本人キャストが大勢出演した

ハリウッド映画『沈黙-サイレンス-』(2016)は、台湾で撮影された。

製作陣は日本を希望したが、規制が厳しいために断念したという。

『ワイルド・スピード X3 TOKYO DRIFT』(2006)は

その副題にある通り、東京が舞台だが

規制によって、監督はゲリラ撮影を行わねばならず、

何度も警察に捕まりかけたという。

日本が、どれだけ「映画のもうひとつの経済効果」をフイにしてきたか。

日本は、映画市場としても

人口減少、邦画・アニメ偏重で、市場としての魅力が失われて行っている。

『Avengers: Endgame』のプロモーション・ツアーが

中国、韓国に行ったあと

日本には寄らずに、アメリカに戻ってしまった事実について

その深刻な事態について、

映画会社、映画振興に関わる関係者は

もっとよく考えなければならない。

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